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passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.85

わたしと空斗くんは場所を少しずらした。そうすればまた違った夜景が見えるから。
「すごい… 空斗くん!こっち側も綺麗だよ!」
「うん。凄く綺麗だね」
わたし少し童心に帰っているのかもしれない。

でも、今は許して… それに他にお客さんはいないから。
「…のぞみさん」
「なに?」
「しばらく話をしてもいいかな?」
そう言った彼の声には、お互いが敬語で話していた頃のような落ち着いた声の低さがあった。
「うん、いいよ。」
「…初めてあった日のことは覚えている?」
「ちゃんと覚えているよ。」
「おれ、初めて希さんを見た時凄く驚いたんだ。とても綺麗で、それで可愛らしくて…」
空斗くんはあの時、そんな風に思っていてくれたんだね。でもこれってもしかして…
「おれパイロットの訓練をいろいろ経験してきたけれども、飛行機の墜落の経験だけはしていないんだ。当たり前だけどね(笑) でも、希さんを初めて見た時は、きっと飛行機が墜落する時の感覚ってこんな感じなんだろうなって思ったんだ。今でもおれ慣れてないんだけれどね、希さんの可愛さに」
わたしそんなに可愛くないよ、恥ずかしいよ。
「おれはあの日、世界で一番可愛い人に出会ったんだ。真剣におれはそう思っている。信じてもらえないなら信じなくて大丈夫だからね」
ううん、そんなことないよ。空斗くんのこと信じてるよ!
「でもね、おれはただの航空学生だってことにもすぐに思い出したんだ。おれの目の前にいる人はとても綺麗な女優さんだもの… 自己紹介をして希さんが同い年の人だってこともすぐにわかったけれど、なんだか遠い人のようにおれは感じたんだ。だから、そのことに気付いた時、そう感じていなかったのなら、残りのご飯はきっと全然食べれなかったと思う」
そうだったんだ…初めて会ったあの日、空斗くんはそう感じていたんだ。
「でも、話をしてみてわかったんだ。希さんは外面以上に内面も素敵な人なんだって。おれは希さんと2人でお話できて、すごく嬉しかった。だから、今日だけはわがままを許してほしいって神様にお願いしながら、希さんに見送っていいのか聞いたんだ。希さんのことを見送れておれはそれで本当に嬉しかった。でも、見送った後の虚しさがすごく辛かった。「自分なんかが」ってわかってはいたけど、それでも寂しかったんだ… 寮に帰ってからは、おれはドラマのお手伝いで希さんのことを遠くから見ていられればそれでいいんだって思っていた。だから、希さんの指導役を教官から聞いた時は、一瞬意味がわからなかった。正直言うならそこからかな。高望みを少しだけしてしまったのは… 撮影初日の第3ターミナルに向かっていた時、おれは本当に緊張していたんだ…」
わたしもだよ。空斗くんがわたしの指導役になった時も、空斗くんを待っている時も、一緒に第3ターミナルに歩いている時も、デッキで一緒にお話ししていた時も… わたしだってずっと緊張していたんだよ。
「でも、それから少しずつだけれども希さんとの距離が近づいているようにおれは日々感じていたんだ。…本当に、本当に嬉しかった。希さんとの時間はとても現実には思えなかった。希さんに出会えてから毎日が変わった。世界が凄く輝いて見えるんだ。たくさんの思いが胸を締め付けて、夜は素直に眠れないし、朝は早く起きてしまう。それは希さんのことで頭も心も胸がいっぱいになってしまうから…」
そうだったんだ… 空斗くんが「夜眠れない」って言っていたことも、いつも朝早いなって感じていたこともそういうことだったんだ。ありがとうね。嬉しすぎるよ…わたしのことそんな風に思ってくれているなんて。
「あんまり時間は経っていないけれども、でも、希さんが本当に素敵な人だってことだけは、それだけはおれ、わかっている」
うん。わたしも空斗くんが素敵な人だってこと知ってるよ。
「まだまだ希さんの知らないことをおれにはたくさんあると思う。でも、確実に希さんとの距離は少しづつ近づけているのかなって思ってる。それになによりも、おれは希さんのことが、「好き」なんだ。…こんな自分でよかったらお付き合いしていただけませんか?」
言葉が出ないよ。わたしは、気を抜いたら涙が零れてしまいそうだった…
「…ありがとうね。空斗くんがわたしのことをそんな風に考えていてくれていただなんて思ってもいなかった。だから、びっくりしちゃったけど、本当に嬉しいんだ。わたしもだよ… わたしも空斗くんと同じ気持ちなの。だから、わたしも空斗くんが好きです… こんなわたしですけど、よろしくおねがいします。」
「……ほんとに?」
「え、なんで?わたし変なこと言っちゃったかな?」
「ううん。変なこと言ってないよ! ただ、オッケーしてもらえるなんて全く考えていなかったから…」
「断られると思って話していたの?」
「それも考えてなかった…」
「じゃあ、なにを考えてわたしに話をしてくれていたの?」
「…自分の素直な気持ちを言葉にすることに夢中だった。ただそれだけだったから、うまくいった時のことも。うまくいかなかった時のこともどっちも考えていなかった。 でも、今は素直に嬉しいや」
空斗くんにもこういうところあるんだ、初めて知った。
「本当にありがとうね、わたしもすごく嬉しいよ。でも、恥ずかしい…」
「おれもすごく恥ずかしいよ…」
「2人して恥ずかしいってなんだか変だね。」
「うん。そうかもね」