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passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.89

さすがに早く来すぎちゃったかな。わたしは現場に向かう空港のロータリーを歩きながらそう思った。でも、早く来たかったんだ。早く来たからって空斗くんがいるわけじゃない。でも、気付いたら体が勝手に動いていた。わたし、小学生みたい…そう思いながら扉の中に入った。
……空斗くんだ。現場には私服姿の空斗くんがいた。それに教官も。こんなに早い時間なのに。彼は上着を脱いだ黒のセーター姿で片足を両手で抱えながらイスに座っていた。教官となにか楽しそうにお話をしているみたい。
わたしが少し小走り気味で近づくと二人はわたしに気がついた。
「空斗くん、教官こんにちは!」
「やあ、のぞみちゃん」
「のぞみさん早いね!」
「うん! でも、空斗くんのが早いじゃん!」
「ははっ、確かにそうだね」
「……私は少し今日の説明のための用事があるからちょっと行ってくる」
「わかりました」
「お気を付けて。」
教官は何も言わず笑顔でこちらを見ると、そのまま今わたしが歩いてきた道を歩いていった。
「昨日はありがとうね。楽しかったっていうか嬉しかったっていうか……」
空斗くんが少し恥ずかしそうに言ったその言葉を聞いて、わたしは大切なことを思い出した。そしたら、恥ずかしくなってきちゃったの……
「うん。わたしこそほんとうにありがとう。とっても嬉しかったよ。」
「のぞみさんがそう言ってくれたならおれもうれしいや」
そう言って彼は優しい笑顔を見せてくれた。昨日の撮影の時の空斗くんも、今わたしの目の前にいる空斗くんも、初めて会った時の空斗くんも、なにも変わってないない。そう思うと嬉しかったし、すごく安心できたんだ。
「……「希」でいいよ。」
「え?」
「さんづけだと堅苦しくないかなって思って。」
「うん。そうだね。」
彼の表情を見ると照れているように見えた。
「わたしは「空斗くん」の呼び方のままでもいいかな?気にいっているんだ。「空斗くん」の響きが。」
「うん、いいよ。のぞみさんの好きな…じゃなくて、希の好きな呼び方で……」
わたしの名前を言い直した空斗くんの声は小さくて、彼はとても恥ずかしそうにしていた。
「ん?聞こえなかったよ!」
「どこが?」
「ぜんぶ!」
彼はなにかを言いかけたんだけどやめて一度息を飲み込んだ。
「……希の好きな呼び方でいいよ!」
そう言った彼の言葉はなんだかぎこちなかった。
「あははっ、なんだか自然な感じじゃないね。」
「だって、恥ずかしくてさ……」
そういう少し不器用で恥ずかしがっている空斗くんがわたしにはかわいく思えた。