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passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.100

12月25日(月)
今日も朝起きてからちゃんとランニングに行った。ランニングから帰ってきたらシャワー浴びて朝ご飯食べて、それからはずっと台本を暗記していた。もちろん空斗くんと連絡も取ったけどそれは朝だけ。彼は今日は学校だからさ。
「お返事返ってきてないかな?」そんな期待を抱いてわたしはケータイを手に取った。
通知が来てる。
『不在着信 田中由紀 36分前』
その通知は空斗くんからのお返事じゃなくて、由紀からの電話だった。
プルプルプル♩プルプルプル♩プルガチャッ
「もしもし、由紀?」
「希?かけ直してくれたんだよね、ごめんね」
「ううん、大丈夫だよ。午前中からどうしたの?」
「別に大した用事はないんだ。ただ希の声が聞きたかっただけ」
「え、なにそれ?」
「ほら、希はずっとドラマの方に行ってるから最近は事務所でも会わないし、この間のゼミも休講だったから会えなかったじゃん。だから、ドラマの事とか…とにかくいろいろ希から話聞きたいなって思って」
「確かに最近会ってないもんね。」
「うん。でも、昨日吉田先生に事務所で会ったんだ。それで希の事をいろいろ聞いたんだけど、ドラマ順調なんだって?」
「うん、まだ放送が始まったわけじゃないからなんとも言えないんだけど、でも撮影の中で手応えは感じているよ!レッスンでやってきたことがここでも通用するんだって。」
「それなら私もレッスン頑張らないとね!じゃあ、ドラマの話はここで終わりね」
「え、もう終わり?」
「うん、他に聞きたいことがあるからさ」
「え…なに?」
予想はついていたけど。
「どうだったの?誕生日は」
「うん。歳を重ねたな~って感じたよ!」
「そんなこと聞いてるんじゃないよ」
「え、うん。…告白されたよ。」
「やっぱり!なんて答えたの?」
「……よろしくお願いしますって。」
「おめでとー!よかったじゃん希!」
「うん、本当に嬉しかった。…でも、まだ慣れてないっていうか、緊張しちゃう部分があるんだよね。」
「初々しいね。でも、付き合いたてってみんなそんな感じだよね。希の話聞いてるだけで私までキュンキュンしてくる!それで、告白の言葉はどんな感じだったの?」
「え、そこまで言わなきゃダメなの?わたし、思い出すだけで恥ずかしいよ。」
「ダメに決まってるじゃん。私も貢献してあげたんだからね」
そうだよね。由紀がわたしのわがままを聞いてくれたから、あの日は空斗くんと一緒に過ごせたんだもの。
「わかった。由紀の優しさのおかげだもんね。いいよっ、なんでも聞いてね。」
「別にそこまで恩義を感じていなくても大丈夫だから。じゃあ、とりあえずどういう風に告白されたのか教えて欲しいな」
「……撮影が終わった後、わたしはどこに行くのかわからないまま彼について行ったの。空港から駅に着くと空斗くんはモノレールのチケットを渡してくれたんだ。チケットは朝に買っておいたみたい。」
「じゃあ、希はお金出してないの?」
「うん。それからモノレールに乗って浜松町で降りてから少し歩いたんだ。そしたら東京タワーの前に着いた。彼は東京タワーのチケットもプレゼントしてくれたの。これも朝に買っておいたみたい。」
「うん」
由紀はわたしの話にもうどっぷりだった。
「東京タワーの大展望台から見えた景色…とっても綺麗だったな。少ししたら空斗くんが話をしたいって言ってね。」
「……続けて」
「彼は自分の気持ちを素直に話してくれた。それはドラマのように簡潔でスマートなセリフではなかったけど、空斗くんは一つ一つを確かめるようにゆっくり、丁寧に、話してくれた。…わたしはただただ嬉しかった。わたし、誰かにこんなに思ってもらえてるんだって。」
空斗くんのあの時の真剣な表情を思い出すと、わたしの胸が熱くなってきた。
「のぞみ、泣いてるの?」
「……ううん、泣いてないよ!」
「本当に?」
「ほんとだよ!…それにね、彼はわたしのことを「世界で一番可愛い」って言ってくれたんだ。」
「せかいでいちばん…か」
「どうしたの?由紀」
「いや、希はそう言ってくれる人がいて幸せ者だなって思ってさ」
「え?」
「これから彼がどういう風に希と付き合っていくのかはわからないけど。でも彼の想いが本物なら、希は成田君にとって世界で一番可愛い女の子で、彼が希を世界で一番のお姫様にしてくれるんだろうなって思ってさ」
「本物」…その言葉に少し不安を感じた。
「……のぞみ?」
「あ、ごめん。少しぼーっとしてた。」
「彼との思い出に浸っていたの?」
「あははっ、バレた?」
少し作り笑いをしちゃった。
「それで、彼の誕生日のお返しはどうしようと思っているの?」
「あ…そういえば。」
「やれやれ。その感じだとすっかり忘れてたみたいね。成田君はたしか希の何日か後だったよね?」
「空斗くんの誕生日は28日だよ。」
「まだ時間は少しあるけど、大切なことをなんで忘れていたの?」
「……なんでだろうね。でもわたし、ドジだからさ!」