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passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.120

ご飯を食べ終えるとわたしは空斗くんに手を握られながらデッキにやってきた。夜のデッキは人も他にいなくて飛行機のエンジン音が妙に落ち着いて聞こえるの。

……目がもっとよく見えたら、綺麗な光景なんだろうな。

「ベンチに座る?」

わたしはうなずく。

「夜の空港って昼間とは違ってすごく落ち着いているんだよね」

わたしは黙ったまま共感していた。

「……しばらく話をしてもいいかな?」

あの時と同じ言葉。

わたしはそう思いながら静かにうなずいた。

「話したいこと上手くまとまってないから、わかりにくいかもしれないけど話すね。まずはなんだけど、「希」って呼び方やめるね。これからはのぞみさんって呼び方に戻す」

 どういうことなの……

 不安でたまらなかった。

「「希」って呼び捨てで呼んでいると、どこかで雑になってしまいそうな気がするんだ。大切な人だからこそ、普段から丁寧に接していたい。今回のぞみさんの病気の件でより一層その思いが強くなった。だからのぞみさんってまた呼んでもいいかな?」

 わたしは首を縦に振った。空斗くんの優しいところがわたしは好き。ちゃんと「わたしのこと大切にしてくれてるんだ、考えてくれているんだ」ってことがすごく伝わってくる。

「ありがとう、続けるね。一昨日の朝、おれは「何してるんだろう」って思ったんだ。のぞみさんが苦しんでいて助けを求めてくれているのに、おれはただ寝てただけ。自分がすごく情けなかった。それに、のぞみさんの目があまり見えないって、声が出ないって聞いた時もどうしたらいいのかわからなかった……」

やっぱりそうだよね…目が見えなくて声が出ないんじゃね。

「でもそれはのぞみさんのことを思うとであって、おれは命に別条がなくて本当によかったって思っているんだ」

……どういうことだろう?

「のぞみさんの声が出なくて目が見えない状況を思うとおれはすごく胸が痛い…変わってあげられるなら変わってあげたいよ。でもね、おれはたとえのぞみさんの声が出なくたって、目が見えなくたって構わない。そんな軽い気持ちであなたを好きになったんじゃない。今こうしておれの目の前にいるのぞみさんが病気であったとしても、東京タワーのあの時と自分の気持ちは何も変わっていない。何度も言っているけどのぞみさんのことをおれは本当に大切に思っている。だから安心してほしいんだ。何があってもおれはのぞみさんの傍にいるから。病気なんかどうでもいい。生きていてくれて本当によかった。おれはそれだけで嬉しいんだ」

空斗くん…ダメだよ、我慢できないよ……

わたしの目からは大粒の涙が溢れだしていた。

「病気なんか本当にどうだっていいんだ、怖くなんかないよ。おれはのぞみさんがただ好きなだけだから」

そう言うと彼の左手はわたしの右肩にそっと触れ、次の瞬間には空斗くんの唇がわたしの唇に重なっていた。…ダメだよ、病気うつっちゃうよ。

でも、ありがとう空斗くん。今のわたし、声が出なくても幸せだよ。