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小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.123

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「のぞみさんはよくここのカフェに来てるの?」

わたしは空斗くんと浜松町駅近くのカフェに来ている。

「うん、ここはよく来るお店なんだ。店内は落ち着いているしコーヒーが美味しいからね

「いつも思うんだけれど、のぞみさんってよくコーヒー飲んでるよね。美味しい?」

「うん!わたしはコーヒー好きだもん。そういえばわたし空斗くんがコーヒー飲んでる姿見たことないな。」

「確かにそうだったかもね」

「……もしかして空斗くんコーヒー飲めないの?」

「いや、飲めないって事はないけど、苦くて得意じゃないかも。今のぞみさんが飲んでるコーヒーも美味しいの?」

「美味しいよなんで?」

「のぞみさんが今飲んでるコーヒー凄く黒いじゃん。だから苦みが凄そうだなって思って」

「コーヒーなんだもん黒くて当たり前じゃん。確かに甘くはないけど香りが凄くいいんだよ!空斗くんが飲んでるものは美味しい?」

 そう言ったわたしは空斗くんのマグカップを直視した。でも、すでに中身がなくなっていた。

「おれは飲んじゃったよ」

「早いね!」

「でも、のぞみさんが飲むの遅いっていうのもあるよ」

「そうかもしれない。わたし一杯のコーヒーをゆっくり飲むのが好きだから。空斗くんはなに頼んだんだっけ?」

「抹茶オレ!」

 抹茶オレって言った空斗くんの顔は笑顔で輝いていた。それだけを見ても抹茶オレが空斗くんにとってどれだけ美味しかったのが理解できる。

「ふふっ。空斗くんは抹茶オレがよっぽど美味しかったんだね?」

「うん。抹茶の甘みが非常に深かったですね~」

「なにその感想。笑わせないでよ~!」

「おもしろかった?」

「うん!すごくおもしろいよ

 空斗くんは出会った頃の真面目な姿を忘れてしまいそうなくらい今はおもしろいことを言ってわたしを笑わせてくれるの。でもね、そういう空斗くんの素の姿がわたしは好きだし、今でも空斗くんの甘いものを目の前にした姿はかわいいなって思うんだ。

「午後の社長との面談はどう?やっぱり緊張する?」

「そうだね、何言われるかわからないからやっぱり緊張するかな。」

「でも、きっとネガティブなことは言われないよね」

「わかんないよ、お説教されるかもしれないからね。」

 口では「お説教されるかもしれない」って言っておきながら笑っているところに、今のわたしの女優としての充実感が表れているのかもしれない。

「あれだけドラマも好調だったんだからやっぱり褒められるんじゃないのかな」

「そうだと嬉しいけどね。もともとドラマの放送が終わったら面談する予定だったから、ドラマのことではあると思うんだけどね。」

「そうなんだね。じゃあ、少し早く事務所に向かった方がよかったかな?」

 わたしは右の手首に目を向けた。

「そうかもしれないね。」

 時間を確認すると、残りのコーヒーをわたしは口に運んだ。

「向こうまで送っていくよ」

「ありがと。あっちの駅までで大丈夫だからね。事務所まで行くといろいろ言われそうだし。」

「わかった」

 わたしたちはお店を出て駅へと向かった。駅に向かって歩いている時わたしは彼に言ったんだ。「好き」って言葉を。