passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.126

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空斗くんとは駅で待ち合わせをすることにした。約束していた時間よりもわたしは大幅に遅れてしまったの。それでも空斗くんは何も文句を言わなかった。でもね、空斗くんとのいつものカフェまで歩いている時間も彼はなにも言葉を口にしなかった。

「それで話したいことってなに?」

空斗くんは運ばれてきた紅茶を一口運ぶとそう言った。

「わたし最近いろいろ自分の将来の事考えるようになったんだ。そしたらね、思ったの。わたしはまだ22歳で世の中の事も社会の事もまだなにも知らない。 社会は広いんだよ。それをまずは空斗くんに知ってもらいたくて……」

「前置きはいいからさっさと話せよ」

その言葉を口にした空斗くんはわたしが知っている空斗くんじゃなかった。

「……もう会わない方がいいかなって思っている。でも、それはね、」

「もういいよ」

彼はわたしの言葉を遮った。

「ちゃんとわたしの話を聞いて!」

わたしは今までこんなに強く空斗くんになにか言葉を言ったことはなかった。

「聞く必要ないよ。「若気の至り」とか、「社会人はね」とか、「大人」、「広い視野を持て」、要は「世界は広い」っておれに言いたいんだろ?」

「……確かに似てるようだけれども……」

その先の言葉に詰まった。

「でも、なんで空斗くんはわたしがそういうことを話すって考えたの?」

「簡単だよ。のぞみさんは親の、大人の操り人形だからだよ」

「そんなことない!わたしは操り人形なんかじゃない!」

「いいや、操り人形だよ。それにのぞみさんが言っている「世界」は、Google Earthと何も変わりがないと思う。子供じゃないんだから、自分のことくらい自分で決められるようになってからおれに大切なことを話してくれないかな?」

「違う!これはわたしの気持ちなの! 空斗くんのことをもう好きじゃないっていう気持ちは正真正銘わたし自身の気持ちだから!」

「そうなんだね。 2日前もこのお店に来たよね。お店を出てからのぞみさんはおれになんて言った?」

「……「好き」って言ったと思う。」

一昨日の駅に向かって歩いていた時間、わたしはその言葉を空斗くんに伝えたことを今もはっきりと覚えていた。

「のぞみさんの「好き」って気持ちは、おれと会っていない2日程の時間でなくなってしまうような「軽い」ものだったの? それとものぞみさんは、大人に、自分じゃない誰かに何か言われて気持ちがころっと変わってしまうような人間なの? さあ、どっち?」

 ……。何も返す言葉が見つからなかった。

「のぞみさんは立派な家庭育ちだし、大きな事務所にだって所属している女優さんだから抗えない未来がやってくるかもしれないとは思っていた。だから今こうして別れてしまう事もしょうがないと思う。 でも、のぞみさん自身の僕を「好き」と言ってくれた気持ちだけは信じていたよ。とても残念だ……」

そう言うと空斗くんは荷物をまとめて席を立とうとしていた。その姿にわたしは「行かないで」、「置いてかないで」と言葉にする事が出来なかった…そうしている間に彼はわたしの前から姿を消していた。

思わず涙が零れていた。それはとても悲しい涙だったの。わたしは慌てて席を立ってお店を出た。

お店を出るとわたしはまず空斗くんの連絡先を消した。トークも。電話番号も、二人で撮った写真も全てを。