passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.130

店員さんに声をかけられた後、お財布を開くと5000円札が真っ先に目に入った。希は5000円を店員さんに手渡すとすぐに外へと走り去っていったの。それから近くの小さな公園のベンチの片隅に一人で泣いた。 公園には小さな子どもを連れたお母さんたちがいたし、希が座っているすぐ後ろのネット越しの歩道では幼稚園児たちが先生に見守られながら長い列を作って歩いていた。園児たちは横から聞こえてくる希の大きな泣き声に食いついてきた。そんなことはわかっていたけど、それでも希は人目を憚らずに泣いたの。それはこれまでの人生で経験したことがないくらいに悲しくて辛かったから…… 22年以上もの時間を生きてきて、希はこの僅かな時間の中でかけがえのない人を二人ほぼ同時に失った。大切な親友と、自分の弱さと心の全てを許せた恋人… 大切で脆いものが崩れ落ちた瞬間だった。その音を感じた希はさらに激しく涙を流した。嘔吐をしてしまうほどに止まらぬ涙とうめき声に、公園にいた人間は皆気味悪がってその場を後にした。目の前で起きた現実に、激しい動悸が希の心を締め付けた。それでも、誰も助けてはくれなかった。