passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.133

空斗くんと出会った日からもう少しで2年が経とうとしていた頃、希を取り巻く状況は大きく変わった。希は「アフター5の恋」での演技が評価された事に加え、事務所の強い押しもあってその後も何本もドラマへと出演した。出演したドラマ自体の評価は各々に分かれた。評判が良かった作品もあれば、あまり話題にならなかった作品もある。ただ、それはあくまでドラマ自体の評価であって希の女優としての評価ではない。希の演技は、「可もなく不可もなく」だった。悪くはないんだけれども、別に何か光るものもあるってわけじゃなかった。その姿を見た「アフター5の恋」で共演した佐々木さんや伊藤さんを始めとした役者さんたちは現場や個別に希と会って、希のスランプ脱出、あるいはかつての姿を取り戻してあげようと親身になってくれていた。でも、それは出来なかった。そして、親身になってくれた皆さんもなぜ希の演技がかつての輝きを失ってしまったのかすぐに気が付いた。ただ、希から話を聞くにつれ、それを希に取り戻してあげることは出来ないってわかった。希にとっての魔法をかけてあげられることができる人間は、世界がどれだけ広くてもただ一人しかいなかったから。時間が経つにつれ、ドラマを見ている視聴者にはもはや希がそのドラマに出ていることすら忘れられていった。希はこの2年間の間に、自らの首が砂時計のようにゆっくりと絞められていくことを感じていた。