passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.136

1215()

「部長、月島商事との件ですが明日の午後15時からの……」

「カーット! 希ちゃんそこ素直に午後3からって言っちゃっていいからね」

「すいません…もう一度お願いします。

そのシーンを撮り終えると休憩が入った。わたしは重い足を引っ張ってなるべく早くイスに向かう。イスに座るとわたしは項垂れた。そしてバッグからタオルを取り出すと顔を勢いよくめた。

 …自分の今の立場は十分にわかっている。もう新人じゃないんだ。わたしに必要とされているのは演技力、それに表現力、躍動感。でも、もっとわかってることがある。二年前に撮影した「アフター5の恋」の方が絶対に上手く演じられているってことを。技術的なものはあのころと比べて悪くなったわけじゃない。むしろ経験を得ているんだからプラスなはずだと思う。でも、何かが足りないんだ。監督さんやスタッフさん、それに自分自身だってその欠如に気が付いている…気が付いているんだよ。だけど、それがなんなのかがわからない。最近は家に帰ると「アフター5の恋」をずっ見ている。画面の向こうにあるはずのものをわたしは探している。でもね、考えれば考えるほど、空斗くんのことを思い出してしまうんだ…それがわたしの探し物の邪魔をする

「希ちゃん」

わたしの名前を呼ぶ声が聞こえる。

「熊田さん。

タオルを離して前を見ると、目の前に熊田さんが立っていた。

「何か悩んでるの?大丈夫?」

「はい… わたしミスしてばっかりで皆さんに迷惑ばかりかけていますし、それに自分でも演じている感覚が全然しっくりこないんです。」

「人間が演じる役ってさ、やっぱり人間なわけだよね。でも人間とは言っても世の中にはたくさんの人間がいる。だから、自分に合った人間や合わない人間だっているんだからしっくりこないことがあってもしょうがないんじゃないのかな?」

「そうかもしれませんね。でも、女優である以上はそのしょうがない部分を乗り越えていかないといけないって思うんです。」

「希ちゃんは真面目だね。僕もそういうこと考えていた時期あるけど、そこまで悩んではいなかったな…数をこなしていけば自然と身についていくと思うよ。休憩も終わりみたいだし、行こう!」

…はい。」

わたしは席を立ってカメラの方に歩きだした。そしてそのすぐ隣を熊田さんが歩いている。

熊田さんはわたしが悩んでいる時はいつもこうして励ましてくれるんだ。それは凄く嬉しいし、評判通りの優しい人だなって思っている。でもね、不意に隣に来て同じ歩調で歩いたり、距離感が近いこと、それに最近はボディタッチが少し気になっているの。