passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.142

「それって家を出るってこと?」

「そういうことになるね」

「なんで?今まで目指してるって言ってた大学はどうしたの?」

「そこを目指しておけばわたしがきたい関西の大学にも合格できると思っていたから」

「どうして関西なの?」

「…私、野球部の彼氏がいるの」

 その言葉を聞いたわたしは、ただ唖然とした。学業が優秀で生活態度も真面目な妹がそんなことを言うだなんて思ってもいなかったから。

「私の通っている学校って野球部強いのはお姉ちゃんも知っているよね?今年の甲子園にだって出ているし」

「それは知ってるけれども…

「私の彼はその甲子園メンバーのレギュラーだったの。彼、プロ志望届出したんだけれども、今年のドラフトで指名してもらえなかったんだ。だから、その悔しさを糧に大学に進学して4年後でのプロ入りを目指しているの。その彼が進学する大学が関西にあるの

「百合はその彼氏と一緒にいたいから関西に行きたいの?自分の夢とかやりたいことは百合自身にだってあるでしょ?」

「彼と一緒にいたいって気持ちは本当だよ。でも、それだけじゃない

「それはどういうこと?」

「私自身本当はずっとその学校に行きたかった。そこい行けばすごく楽しくて充実した大学生活を送れるんじゃないのかって思っていたんだ。でも、お母さんも、お父さんも絶対に一人暮らしは認めてくれない。だからずっと我慢して、誰にも相談できずに諦めていた。でもね、偶然彼が私の行きたかった大学に進学することが決まった。だからね、自分の行きたい道を選べば、これから先後悔することもないし、大好きな彼とも一緒にいられる」

「でも、それは…

「わかってる、わかってるよ。お姉ちゃんが言いたいことは。でもね、たくさん考えてみて思ったの。どうして私は、自分の素直な気持ちを親のせいで我慢しないといけないのかって。それに私は、親のためじゃなくて、大好きな彼のために彼自身の夢を一番近くで応援してあげたいの。そしていつかは結婚だってしたい

「百合はまだ高校生だよ。学生の身でそんな、大げさだよ。百合はもっと自分の将来のこと真剣に考え直すべきだよ。」

「…ずるいよ」

「え?」

「大人はずるいよ」

「それは、ずるいんじゃなくていろいろ経験しているからだよ。」

「違う。経験なんかじゃない。大人はみんな後悔しているからだよ!」

 わたしは黙っていた

「お姉ちゃんは優しいからまだこういう風に話してくれるけど、塾の先生や学校の先生みたいな大人たちはみんなもっと私のことバカにする。高校生のくせにって。それに、お母さんとお父さんはそんなことじゃ済まない…でも、私が本当に彼と歳を重ねてから結婚したら、世の中は「高校生の頃から続く一途な恋」って急に態度変えて褒めるよ

 それは、わたしの胸にガツンと来るものがあった。

「確かにそうかもしれない。でも、はそういう家系だし、高校生の恋愛だなんて社会人の真剣な交際に比べたらまだまだ…」

「社会人同士のお付き合いは真剣なのに、高校生同士のお付き合いはおふざけなの?お姉ちゃんだってついこの間まで大学生だったじゃん。…お姉ちゃん最近お母さんに似てたよ

 「お母さんに似てきた」。それは本来喜んでいいはずの言葉だけれども、ここでの意味はそうじゃなかった