passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.147

「紗枝さんには全て話しているのでご存じだと思いますが、わたしはアフター5の恋の撮影の時期に空斗くんのことが好きでお付き合いしていました。彼は現場のお手伝いとしてわたしの近くにいつもいました。だから、彼が見ていてくれたから生き生き演技が出来ていたんだと思うんです。当時は演技力なんて全く気にしていませんでした。ただ、空斗くんの前でわたしの精一杯を出し切りたい一心に、それだけに夢中だったんです。だから、今は空斗くんのことを考えるのが辛いですし、当時と同じことを今では出来ません。それに無意識を意識しすぎて体が言う事を聞かなくなるんです。」

「いまさら、気が付いたの?」

紗枝さんは一度間を置いてからそう言った。

「はい…

「あれからそろそろ2年が経つって言うのにね。時間が解決できることには限界があるのかしら」

「…もしかしたらそうかもしれませんね。」

「わたしの素人意見だけれども、言ってみていいかしら?」

「はい。」

「厳しく言ってしまうけれども、要は希ちゃんには芸能界を女優として生きていく力が最初からなかったってことじゃないかしら

「それは、どういうことですか?」

「希ちゃんが初めてのドラマに出られたのは、先輩の怪我と事務所の迅速な対応もあって急遽決まったんでしょ?それって女優として希ちゃんの実力よりも周りの環境に影響を受けたところが大きいと思う。それでも希ちゃんにとって幸運だったのは空斗君が現場にいたこと。大好きだった彼が希ちゃんのすぐ近くにいてくれたから希ちゃんは実力以上の演技が出来たと思う。でも、希ちゃんは自らの手で手放してしまった。だもん、もう上手くいくわけないよ。最初が出来すぎなだけで、希ちゃんの女優としての本来の実力は今の姿なんじゃないかな。…素人の私がこんなこと言ってしまってごめんなさい。でもね、私は本当にそう思っている。それにここで歯の浮くような言葉を並べても何も状況は変わらないと思うから」

紗枝さんの言葉に、あの頃に感じていた気持ちを思い出した。