passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.148

「はっきり言ってもらえた方が助かります。そうですね、紗枝さんの言う通りだと思います。…わたし、紗枝さんの言葉を聞いて昔を思い出しました。ドラマの出演が決まった時、本当に嬉しかったんです。でも、業界のことを何も知らなかったわたしの希望はすぐに不安に変わりました。顔合わせ会では、不安が行き過ぎて吐いてしまいました。両親のアドバイスを受け入れて、女優のお仕事じゃなくて民間企業に就職すればよかった、そんな後悔もしました。でも、空斗くんと出会って、彼と一緒の時間を現場で過ごしていくうちに、わたしの不安はいつの間にかどこかに消えてしまった。だから、あの時だけは上手にできたんですよね。」

「希ちゃんもそう思ってくれているなら、あえて厳しいことを言った私も少し楽になるわ。でも、不思議よね…」

「なにが不思議なんですか?」

「わたしには、「成田空斗」という人間が不思議でしょうがない。こんなに脆い希ちゃんの全てを彼は解決してくれるんだから」

そう。空斗くんはわたしの人生を良くも悪くも変えられるただひとりの人間。

「そうですね。不思議、ですね…

「あら、素直に認めるのね」

「こればっかりは、仕方ないです。…わたし、最近女優を引退することを考えたりしています。

「それは今お仕事が上手くいっていないから?」

「それもありますし、今こうして紗枝さんが話してくれた言葉を聞いて、わたしは素直にその通りだなって受け止めて感心していました。競争が激しい芸能界で生き残っていく人って、そういう人じゃないと思うんです。わたしと同じように受け止めながらも、悔しさを感じて努力できる人間だと思います。わたしは、そうじゃありません…」