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小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.160

 

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お仕事がお休みになったから今日はしばらく寝ていたんだ。ベッドから出てリビングに入るとお父さんと百合はもちろん、お母さんもいなかった。テーブルの上を見るとわたしの朝ごはんのサンドイッチと『誕生日おめでとう』と書かれたお母さんからの置手紙が置いてあった。

わたしは誕生日だったことも重なってすごい寂しさに襲われていた。朝ごはん食べてテレビ見て、今度はお昼食べてまたテレビ見てって、その間はずっとパジャマ姿で部屋のリビングのソファに小さくなって座っていた。でもね、そんな時だった。

「ドラマ放送の途中ですがここでニュースに変更させていただきます。先ほど入ってきた速報です。大手芸能事務所であるマツダプロダクションの詐欺、賄賂が明らかになりました」

……しばらくは理解が出来なかった。でも、ニュースの画面が切り替わってわたしが毎日通っている事務所や、事務員の方、それに吉田さんや社長の姿がテレビに映し出されてから、やっと現実だと理解できた。

小林真理子社長がどの程度事件に関与しているかによっては刑事事件として扱われる可能性があると警察関係者は話しています」

社長は逮捕されてしまうの?それに吉田さんはどうなるの……

そう思うとわたしは急いで支度をした。そして支度を終えると家を出て駅に向かう途中でタクシーを拾った。

事務所に着くと表口は報道陣関係の人でいっぱいだったから、わたしは裏口から事務所の中に入った。

「希ちゃんどうしてここにいるの?」

事務のおばさんがわたしを見つけるとそう声をかけた。

「ニュースを見て慌てて来ました。」

「そんな、こんな大変な時にわざわざどうして…希ちゃんまで大変な思いすることはないのに…

「ニュースでやっていたこと、どこまでが本当なんですか?」

「わたしもニュースを見て初めて知ったからなんとも言えないわ。でも、先生たちや事務室の中では前からそんな噂は流れていたんだけど、まさか本当だったなんて思わなかったわ」

「その噂ってどういったものなんですか?」

「…言いにくいんだけれどね」

「はっきり言ってもらって構いません!」

「スポンサー会社なんかと実は裏で違法な金銭のやり取りをしているから、希ちゃんや若手の子たちが実力がなくてもドラマやテレビに出れるっていう話なんだけれどもね、でも実際のことはまだわからないから希ちゃんは気にすることないのよ

2年前の由紀の言っていたことがやっとわかった気がした。だから由紀は事務所をやめたんだ。

「今はお気遣いしていただかなくても大丈夫です。わたし、社長に会ってきます。」

「そんな、ダメよ!」

「どうしてでうすか?」

「…それは、社長は今対応に追われていて忙しいはずなんじゃないかなって思うからよ」

「嘘つかないでください!今わたしが社長の元にいったら、わたしが知らない真実をわたしが知ってしまうからなんじゃないですか?」

「……そうね」

「教えていただいてありがとうございます。」

わたしは軽く頭を下げてエレベーターに乗った。8階まで昇る時間がいつもよりもずっと長かった気がした。そして扉が開くとわたしは社長の部屋まで走って中へと入った。社長はカーテンの隙間から注意深く外を見ていた。