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小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.161

「誰かしら?ノックもしないで入ってくる人は」

「わたしです。横山です

「ああ、横山さん。わたしになんのようかしら?」

そう言って社長はやっとわたしの方を振り返った。

「ニュースで放送されていたことはどこまでが事実なんですか?」

「横山さん。残念だけれども私はそのニュースを見ていないから、どこまでがと言われてもわからないわ。でも、外を見ればこれだけの報道陣の方々がいらっしゃるんだからさぞ大きな事件でもあったんでしょうね」

「他人事みたいに言わないでください!」

「でも、あなたには関係のないことでしょ?」

「事務所のスキャンダルがどうしてわたしに関係ないと言えるんですか?わたしはこの事務所に所属している女優です!」

「今はね。でも、もうあなたは終わりよ、横山さん。あなただってそのことはわかるでしょ?」

悔しいけれども言い返す言葉がなかった。

「あなたはこれからも女優として生きていけるだけの実力を持っていない。実力不足、あなたは女優失格なの」

「…そうですね。わたしには女優としての素質がないことは前から気づいていました。悔しいですけれども、社長の言う通りだと思います。」

「あら、自分で気がついていたの?思ったよりもお利口じゃない」

「そのくらい自分でもわかります!」

「そう。それは失礼しちゃったわね。でも、安心して。あなたにたとえ女優としての素質があったとしても所属事務所でこれだけの騒動があったらどっちみちテレビ局やスポンサーから敬遠されるから」

「そうですね。それはこの世界を未練なくやめるのにもいい理由になりそうです。」

「あなたはまたそんなこと言ってる」

「どういう意味ですか?」

「あなたはそうやって理屈をできる限り並べて、自分のやっていることを正当化しようとするおバカさんよ」

「違います!わたしはただ…

言葉が出てこない…

「それに比べて田中さんは優秀ね。いや、今は藍沢さんと呼んだ方が正しかったかしら。彼女はちゃんと自分で考えて行動することが出来た。わたし達からすれば扱いにくかったけどね。でも、その差が今の差よ、横山さん。あなたは大人の操り人形のような人だからとても扱いやすかったけど」

「…わたしは事務所にとっての操り人形だったから由紀よりも早くデビュー出来たんですか?」

「そうよ。先生達の評価は田中さんの方が断然良かったわ。でも、あなたは大人の言うことをなんでも聞いてくれるから。でも、最初のあのドラマだけが偶然上手くいったことで、私もあなたに実力以上の過度な期待を抱いてしまったわ」

「わたしは自分でも大バカ者だと思います。でも、社長の言うことを全て聞いてきたわけじゃ…」

もしかして…

「あら。何か気がついたかしら?」

「社長はもしかして空斗くんのことを、空斗くん自身のことを知っていたんですか?あの時、わたしに彼氏がいたということだけじゃなくて、その相手が成田空斗だってことを…

「いつのことかしら?」

「とぼけないでください!」

「…ええ、知ってたわよ。彼の名前は今でも覚えているわ。彼はとても勇ましかったからね」

「勇ましかった?社長は空斗くんに会っていたんですか?」

「そうよ。会ったわ」

もう意味がわからなかった。自分の知らないところで世界が勝手に進みすぎていて。