passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.164

「横山……

全て社長から聞きました。」

「そうか…すまなかったな。お前の人生めちゃくちゃにしちゃって」

「いえ、吉田さんの言ってたこと鵜呑みにしていたわたしがいけなかったんです。」

「そうか…すまない」

「ただ、つだけ教えてください。どうしてわたしと空斗くんの関係を気に入らなかったんですか?社長の言う通り、わたしに大金をかけていたからですか?」

「それは違う!おれはお前の女優としての将来に本気で期待をしていた。だからおれは…」

「わかりました。ありがとうございます。では、わたしは急ぎで向かいたい場所があるので失礼します。」

「横山!」

「なんですか?」

「…乗せて行こうか?」

「タクシーを拾います。」

わたしは裏口を出てから大通りに出た。そしてタクシーに乗ると羽田空港までお願いをした。運転手さんには「ターミナルはどこになりますか?」と聞かれたけど、どこに向かえばいいのかわからなかった。でも、なんとなく。わたしが世界で一番幸せだったあの日を思い出して、第2ターミナルでお願いをした。

空港に着くとわたしは走った。中に入るとすぐにインフォメーションセンターを見つけた。

「すいません。英国航空の…、英国航空はどこから乗ればいいですか?」

英国航空でしたらあちらの道をまっすぐ言っていただいた突き当たりのエスカレーターを上に登っていただいて、3階に上がっていただいてから1番左の場所から中に入ることができます」

「すいません、ありがとうございます。」

わたしはまた走った。そこに向かったからって会えるかわからない。それに会えたからといって全てが許されるわけでもないことなんてわかってる。でも、じっとしていることなんて出来なかった。エスカレーターを登って教えてもらった場所に着くと昔CMでみた英国航空のエンブレムがあった。わたしはその周りを隈なく探した。でも、どこにも彼の姿は見えなかった。

そんな時にガラス張りの窓の向こうにあの日と同じデッキが見えた。わたしは走った。もしかしたら…って思って。でも、デッキには誰もいなかった。ひとりぼっちのわたしの前を飛行機たちが次々と離着陸していく。諦めてターミナルの中に戻った。少し歩くとわたしは自分が惨めすぎて辛かった。

教官に教えてもらったことを忘れてわたしは社会に染まる大人の言葉を信じた。親友の必死の思いもわたしには届かなかった。なによりも、わたしはわたしのことを世界で番好きだと言ってくれた人の想いを裏切ってしまった。悔しくて、悔しくて大粒の涙を流しながらわたしは膝からその場に崩れ落ちた。近くにいる人達がわたしのことを変な目で見ている。それでもわたしは立ち上がれなかった、我慢できなかった… そんなわたしの姿がわたし自身にさらに追い討ちをかけてくる。「わたしはひとりぼっちなんだ」ってことを。

「大丈夫ですか?」

こんなわたしに声をかけてくれる優しい人がいた。でも、どこかで聞いたことのある懐かしくて、優しい声だった。そう思ってわたしは顔を上げた。

「……空斗くん?」

わたしの目の前には黒色のコートの下に紺色のスーツを着ていて、それに英国航空航空のエンブレムが描かれた帽子を深く被った空斗くんがいた。

「のぞみさん… どうしたの?こんなところで?」

「…空斗くんに会いに来た。」

「え?おれに?」

「何やってるんだ空斗!さっさと行こうぜ!」

奥には空斗くんの同僚らしき人がいる。

「のぞみさん少しだけ待っていてね」

そう言った彼の声は昔と何も変わらない優しさがあった

「省吾さん悪いんですけど、先に行っててもらえませんか?自分は後から行きます」

「後からって…そこにいるの女優の横山希だよな。知り合いなのか?」

「はい。自分にとって大切な人です。だから、お願いします」

「わかった。一緒に飯食う約束だった分は後で倍にして返してもらうからな」

「わかりました、構いません」

「じゃあ、先行ってるからな、遅れんなよ」

「ありがとうございます」

そう言ってわたしの方へと振り返った空斗くんは、両膝を地面につけて目線をわたしと同じ高さにしてくれた。

「とりあえずデッキででも話さない?」

「うん、そうだね」

「大丈夫?立てる?」

「うん。」

わたしは知らない間に泣きやんでいた。それに不思議と楽に立つことができたんだ。そしてわたしと空斗くんは並んでデッキに出てベンチに座った。空斗くんは覚えているのかわからなかったけど、わたしははっきり覚えている。今座っているベンチは2年前の日と同じだってこと。