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小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.169

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プルプルプル

ケータイの着信音が静かな部屋に鳴り響く。わたしがベッドの上に置いたケータイを手に取ると、そこには懐かしい名前があった。

ご無沙汰しています。」

久しぶりだね、のぞみちゃん」

「はい

返事以上の言葉に詰まった。それは久しぶりだったことよりも、今という現実と、わたしが空斗くんを不幸にしてしまったんじゃないのかという申し訳なさでいっぱいだったから。

「のぞみちゃん。今日は空斗の通夜だったけれども、どうして参加しなかったのかな?」

教官の声は優しさに満ちた響きだった。

わたしは行ってはいけないんです。」

「どういうことか教えてくれるかな?」

「わたし空斗くんになにもしてあげられなかったんです空斗くんはわたしのためにあんなに頑張ってくれていたのに、わたしはなにも出来なかった。ううん、それだけじゃない。空斗くんはわたしと一緒にいて辛いことばかりだったと思う。今回のことだってこうして

途中から涙が溢れてしまって、声がはっきりと出なかった。

「事故はのぞみちゃんのせいじゃない!」

「でもわたしわたしは空斗くんにとって疫病神のような存在でしか

自分が情けなくて情けなくて仕方なかった。

「空斗はのぞみちゃんのことを心から大切に思っていた。のぞみちゃんと一緒にいた時の空斗の表情は私が見たことのない笑顔だった。それなのに疫病神だなんて、あるもんか」

「でも、でもわたしは

「明日の葬儀は10時から始まる。だから7時半には迎えに行くからのぞみちゃんは自分の家の門前で待っていなさい」

でも、わたしに空斗くんのお葬式に参加できる資格はありません!」

初めてその言葉を口にしてしまった空斗くんのお葬式だなんて認めたくなかったから言葉にはしたくなかったのに。

「妻が夫の葬儀に参加する資格がないなんておかしな話だとは思わないかね?」

「え どうしてそのことを教官が知っているんですか?」

「空斗はイギリスからわたしに電話をくれたんだ。日本に帰ってきたらのぞみちゃんと結婚することを話してくれたよ。空斗はとても嬉しそうにそのことを私に話してくれた。私もそれを聞いて本当に嬉しかったよ」

「教官は反対しなかったんですか?考え直すようにアドバイスしたりしなかったんですか?」

「どうして私がそんなことをするんだね?」

「だって、空斗くんは2年ぶりに会ったその日にわたしにプロポーズしたんですよ。わたしは空斗くんに酷いこともしてしまいました… わたしからすれば空斗くんの気持ちはありがたいですけれども、空斗くんにとってはそれでよかったのかどうか

「その話だけを聞けば普通は空斗のようなことをする人はいないだろう。でも、空斗とのぞみちゃんは特別だと思う。恥ずかしい話だが私の考えに根拠はない。それでも特別だって思うんだ。それに人の真剣な好きという気持ちを否定する権利なんか誰にもない。たとえそれが親だとしてもだ」

そう言ってもらえるとわたしも助かります。でも、教官がそんなことを言うなんて思いませんでした。」

「今私が言った言葉の半分はわたしの若かった頃の経験で、半分は空斗の影響かもしれない」

教官はそう言って少し笑った。

「…もしかして教官も若かった頃は空斗くんみたいな感じだったんですか?」

「どうだろうね。比べたことなどないから上手く比較は出来ないけど、でも空斗が学校に入学してきた日と卒業した日、わたしは自分の若かった頃を思い出したよ」

「そうだったんですね。きっと空斗くんは教官の若かった頃に似ていたんだろうなってわたしは思います。」

「のぞみちゃんがそう考えるのならそうなのかもしれないな。だがもう夜も遅いから積もる話はまた明日ゆっくりと話すとしよう。遅くに電話をかけてしまって悪かったね」

「いえ、それは大丈夫なんですが。でもやっぱりわたしは参加していいのかどうか

「何が引っ掛かっているんだね?」

空斗くんのお母様と玲奈ちゃんはきっとわたしのことが憎くて仕方ないはずだと思うと、わたし怖いんです。」

「私は空斗のお母さんと玲奈ちゃんとも何度かお会いしている」

「お母様と玲奈ちゃんはどんな人なんですか?」

「直接会って確かめるといい。どんな人かも人がどう考えているかも」

わかりました。」

「大丈夫だ。何も心配することはない」

「ありがとうございます。」

「じゃあ明日は朝早くに迎えに行くからもう寝るんだよ。おやすみ」

「はい。おやすみなさい。」