passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.171

「妻は病気だったんだ。妻の命の危険は出会った時から知っていた。でもね、私はあの人にぞっこんだった。親の説得も振り払い、私は結婚をしたんだ」

「……教官は、寂しくなかったんですか?奥さんがなくなってしまったあとは。」

涙はまだ溢れていたえれども、心は少しずつ教官の話に惹かれていた。

「寂しかった、とても寂しかった。でも、妻は生きているうちに私に娘を与えてくれた。 ……女の子というものは似ているね、母親に。娘を見ていると時より思い出すんだ、あの人の仕草を…髪をなぞる姿がそっくりだ」

「娘さんは教官に愛されながら育って、とても幸せだったと思います。」

「しかし、あの子には苦労をかけてしまった。母親がいない中で私も仕事に追われていたから」

「そんなことないと思います!わたしは同じ女性として娘さんの気持ちがわかる気がします。教官は愛情を持って娘さんに接していたんだと思います。だから娘さんは絶対に教官に感謝をしています。」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。私は父親としてできる限りのことは精一杯してきたつもりだった。だから娘の結婚式の時、娘は私に感謝の手紙を読んでくれたんだ。とても嬉しかったね」

「やっぱり感謝をしているじゃないですか。」

「そうなのかもしれない。でも、私はなんで娘に愛情を持てたと希ちゃんは思う?」

「それは自分の子供だからじゃないですか?」

「それも間違ってはいない。しかし、大きな理由はそこじゃないんだ」

「教官にとってのその大きな理由はなんなんですか?」

「娘が妻の、私の愛した人の子供だからだよ。彼女は私の愛した人によく似ている。その姿がとても愛しいんだ」

教官の話がよくわかっていなかったけれども、少しだけ言いたいことがわかってきたかもしれない。もしかしたら、教官も空斗くんと似ていて不器用な人なのかもしれない。

「希ちゃん、失ってしまった人はもう帰ってこない。しかしね、空斗が私たち生きている人間に残してくれていったものがある。希ちゃんにとってのそのものを見失ってはいけない。今度はもう決してだ。たとえ希ちゃんがこれからどんな人生を歩もうとだ」

「はい。今度は決して、忘れません。今はまだ辛いですけれども、絶対に空斗くんの…」

ダメだ。やっぱりまた涙が

「私の妻が生前にこんなことを話してくれた」

そう言った教官は一度姿勢を正した。

「私たち人間は生まれてくる前に運命の人とお別れをする。そしてこの世界に生まれた私たちは運命のその人を探す旅に出る。それこそが人生なんだとね。そして人生を終えた私たちは帰るべき場所に帰る。そこでもう一度会えるんだと。だから私は寂しくても頑張らないといけないって当時思ったんだ」

わたしはなんとなくだけど近いものを感じた

「奥さんはもしかして修道院を出てらっしゃるんじゃないですか?」

「よくわかったね。妻は子どもの頃から羽田の近くの修道院学校で学んでいたんだ」

「やっぱりそうでしたか。」

「でも、どうしてわかったんだ?」

「知り合いの方に同じ修道院のシスターさんがいます。その人が同じではないのですが、似ている話をしていたので。」

「そうだったんだね。妻も今私の話した内容は自分がいた修道院の基本中の基本の教えだと言っていたよ」

「基本なんですか?」

「ああ、そうだと言っていたけれどもどうかしたかな?」

「いえ、なんでもありません。」

紗枝さんはわたしに修道院でのことをいろいろ教えてくれたけど、そのこと自体は教えてくれてはいなかったから少し引っかかるところがあった。教官の話を聞いて独特の雰囲気を感じたから気が付いたけれど、そうじゃなかったら気が付かなかった。紗枝さんはどうして基本である今の話をわたしにしてくれなかったんだろう。