passing

小説や作詞について書きますし、余計なこともたくさん、そして自分の決心について日々思うことなんかも書くかもしれません

「Air」.176

「お母様、わたし待ちでしたか?」

「はい。ごめんなさいね、知り合いの方とお話ししていたのに」

「いいえ、とんでもないです。わたしこそ気が付くのが遅くなってしまい申し訳ありません」

わたしがそう言うとお母様はポケットに手を伸ばして何かを取り出した。

気を遣ってくれてありがとうございます。…これ、墜落した飛行機の空斗のバッグから見つかった物です。空斗がロンドンで買ったものなんですけど、見ていただければあの子が何を考えていたのか分かってもらえると思います」

お母様は黒く小さな箱を差し出した。

わたしにはそれがなんなのかすぐに理解できた。

お母様からそれを受け取りその箱をゆっくりと開けると、中には綺麗なプラチナの指輪が入っていた。

「…ずるいよ、ずるいよ空斗くん。なんで空斗くんは帰ってこないのに指輪だけが帰って来るの… どうして空斗くんだけが助からなかったの… わたしを置いて先に行かないでよ…」

わたしの声は涙で震えていた。

「空斗は本当に希さんの事を心から愛していたんだね…あの子は幸せになれて本当によかった。希さん、空斗の想いは一生忘れないであげてほしいんです。でもね、空斗の事を重荷に感じる必要はないです。のぞみさんはまだ若いんだから幸せになる権利がある。これからどんな人生が待っていても、自分の幸せを優先して生きてください。私も玲奈も希さんがどんな決断をしようとも応援します」

「ありがとうございます。これから先の人生はわたしにも予測が出来ません。だから将来の事は今は何も言えませんが、でも何があったとしても空斗くんの想いだけはわたしの心に秘めて生きています。彼の愛した女性であるわたしが空斗くんの想いを大切に生きていく。ただそれだけが、空斗くんが生きた証だと思いますので。」

「希さん、ありがとうございます…」

お母様の目からは涙が溢れだしている。

「それにわたしは空斗くんに身をもって教えてもらいました。自分のためにだけ生きる事なんてできない。大切な人がいてくれるから頑張れるんだってことを。」

わたしはそう言って顔をあげた。

ずっと暗い気持ちだから全然気が付かなかったけど、空は雲一つない快晴で、とっても青かった